東京都立大学都市環境学部 都市政策科学科教授。1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院卒業。

【東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 饗庭伸教授】都市計画学に関する学びをインタビュー

東京都立大学都市環境学部 都市政策科学科の饗庭伸教授に、専攻とされている都市計画学に関するインタビューを行いました。都市計画学に関して学びを深めたいと考えている方や、饗庭伸教授と同じく都市計画学を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

饗庭伸教授のプロフィール

東京都立大学都市環境学部 都市政策科学科教授。1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院卒業。博士(工学)。東京都立大学助手などを経て、2007年より東京都立大学都市環境学部准教授、2017年より同教授。専門は都市計画・まちづくりで、主に都市計画における市民参加手法、人口減少時代の都市計画、震災復興のまちづくり、東アジアのまちづくりを研究。山形県鶴岡市、岩手県大船渡市、東京都世田谷区などのまちづくりに関わる。主な著書に「都市をたたむ」(2015年)「津波のあいだ、生きられた村」(2019年・日本建築学会著作賞)「平成都市計画史」(2021年・日本建築学会著作賞、日本都市計画学会論文賞、不動産協会賞)「都市の問診」(2022年)。

1. ご経歴と専攻分野

建築学の中の都市計画学を専攻しています。都市計画は、僕が勉強を始めたころは固い言葉だったのですが、最近は「社会の課題を空間を使って解決する政策」と定義をしています。道路や公園、駅前の再開発、ニュータウンといった「いかつい」空間だけを課題解決の手段とするのではなく、空き地や空き家、路上といった小さな空間も課題解決の手段である、というふうに定義が変わってきました。これはもちろん、人口減少社会に入り、もう日本では大きな空間をつくる機会がなくなってきた、かわって空き家や空き地が利用可能な空間として現れてきたという社会の変化に呼応してのことです。

その中でも僕が得意な専門は5つくらいあります。一つ目はこういった都市計画を民主的に展開する時の、市民参加やまちづくり、コミュニティデザインと呼ばれる方法の研究、二つ目は10年以上前から始まっている人口減少時代における都市計画のあり方、三つ目は阪神淡路大震災や東日本大震災の復興の現場に関わっているうちにいつのまにかできるようになってしまった「復興の都市計画」、四つ目は大学がある東京の都市計画、五つ目は韓国、台湾、中国などの東アジアのまちづくりです。

僕は基本的には本籍地は大学の中から出たことはないのですが、1990年代の後半にはある地方自治体の非常勤の調査員として4年間ほど働いた経験があり、そこで自治体のモノの考え方をしっかりと勉強しました。また、通っていた大学院の研究室では、自治体などから都市計画の仕事を共同研究として受託していたので、普通の民間の都市計画コンサルタントと同じような仕事も経験しました。そして2000年代の前半には神奈川県で活動していたNPOの中間支援組織の理事もつとめていました。このころに学の立場だけでなく、政府の立場、民間の立場、市民の立場で都市計画を経験できたことはとてもいいことでした。

2. 専攻分野である都市計画学を選んだきっかけ

あまり強い目的を持っていたわけではないのですが、学部時代にIAESTEという海外でインターンをするというプログラムに友達と応募したら当たってしまい、1992年のスペインのセビージャ万博の会場を設計する現場事務所のようなところで、2ヶ月ほどインターンをすることができました。その時に都市の中の大きな土地にマスタープランを描いて都市の原型を作る仕事、その仕事を世界中から集められた人材が協力しながら進めていたところを見て、面白そうだなあと思ったことがきっかけの一つです。

とはいえ、そのプログラムがちょっと長く、帰りの飛行機が予定通りに飛ばなかったりして、戻ってきたら大学の授業が進んでしまっており、とばっちりで成績がぎりぎりになってしまいました。入れる研究室が無いなあ・・となり、なんとか都市計画の研究室が拾ってくれた、ということが真相ではあります。

3. 都市計画学の主な実績

研究の成果はいくつかの書籍にまとめて発表するようにしています。

市民参加のまちづくり手法については、「シティ・カスタマイズ」という本を2022年につくりました。これは都市の空間をDIYで豊かにする方法をまとめたものです。

人口減少時代の都市計画については「都市をたたむ」という本を2015年につくりました。これは都市が周辺から縮小するのではなく、内部に小さな穴が開くように縮小していくという変化のパターンに注目して、そこから描き出した将来の都市のありかた、都市計画のありかたを論じたものです。

復興の都市計画については「津波のあいだ、生きられた村」という本を2019年につくりました。僕が東日本大震災からの復興のお手伝いをした、岩手県大船渡市三陸町綾里の復興や過去の災害の歴史などを、人類学者や民俗学者がまじった学際的なチームでまとめたものです。

東京の都市計画については、東京だけではないのですが、都市計画の制度史をまとめた「平成都市計画史」という本を2021年につくりました。また、東京の世田谷区は市民参加のまちづくりの先進自治体として有名なのですが、そこのまちづくりの50年の歴史をまとめた展覧会を企画し、今年の1月から4月まで開催しました。18000人が来場し、とても盛り上がった展覧会でした。

アジアのまちづくりについては「自分にあわせてまちを変えてみる力」という本を2016年につくりました。

4. 都市計画学から日々の生活に活かせること

都市計画は理論というよりは応用の研究が多く、割と社会と近いところで研究を進めます。都市がどう変わっていくか、という空間変化についての研究も面白く、たくさんの発見があるのですが、新しく考えた市民参加の方法が、ぴったりと「はまり」、参加者が創造的に楽しく議論しているのを見ると、良かったなあと思います。近年は、MR(ミクストリアリティ)技術を市民参加の現場に導入する技術開発を行っているのですが、ゴーグルを被ったり、iPadを使って議論ができるかなあと心配していたのですが、とてもうまくいきました。

5. 都市計画学に関心のある方へのアドバイス

僕は知らない都市に行くと、その都市の「普通の暮らし」を理解するために、まちの中をひたすら歩き回るようにしています。名所や観光地をめぐるのは簡単なことなのですが、普通のまちを巡るのは意外と難しいし、でも楽しいことです。歩きながら土地のかたち、建物のかたち、人の流れを読み、そこでこれからどんな暮らしができるのか、それを支えるための空間はどうあるべきなのかを考えるような、そんな習慣をつけるとよいのではないでしょうか。

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