広島修道大学 経済科学部 出木原裕順教授に、専攻とされている情報工学を中心にインタビューを行いました。情報工学に関して学びを深めたいと考えている方や、出木原裕順教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
出木原裕順教授のプロフィール

2000年3月に広島市立大学大学院情報科学研究科修士課程を修了後、同年4月に同研究科博士後期課程に進学。2001年4月より広島国際大学人間環境学部に助手として就任。2003年3月に広島市立大学大学院情報科学研究科博士後期課程を修了。博士(情報工学)。広島国際大学工学部講師・准教授を経て、2017年4月より広島修道大学経済科学部准教授、2019年4月より同教授。コンピュータのデータ構造とアルゴリズムの研究に始まり、近年では、ネットワークを利用した情報システムの開発や情報教育の研究に従事。情報処理学会、電気学会、電子情報通信学会、日本感性工学会、ACM、IEEE各会員。
ご経歴と専攻分野
広島市立大学情報科学部の学生時代に卒業研究でコンピュータのデータ管理に関する研究に携わるようになりました。その後、同大学院に進学すると研究活動が本格化していきました。研究テーマとしては、空間軸に時間軸などを加えた多次元軸に基づいて効率的にデータを管理できるアルゴリズムの開発になります。自分でシステムをプログラミングしてシミュレーション実験を行い、実験結果を分析してシステムを改良する日々でした。そんな中、縁があって広島国際大学人間環境学部に助手として就任しました。働きながら博士号取得を目指す社会人ドクターとして仕事と学業の両立が大変でしたが、周りの人に支えられて何とか無事に博士後期課程を修了し、博士号を取得することができました。その後、職場では工学部に所属が変わりましたが、広島国際大学所属時代には色々な経験や出会いがあり、社会人としても研究者としても今の自分を形作る基礎になりました。新たな人との出会いから、情報システムの開発に携わったり、ネットワーク教育に携わったりするなどの機会を得て自身の研究の幅が広がっていきました。新たに広島修道大学経済科学部に着任してからは、「データを管理する側」から「管理される側」にも研究の幅を広げていき、実世界からデータを収集して、ビッグデータとして蓄積し、それらを機械学習で解析して実世界にフィードバックする情報システム(最近の用語でいうと、いわゆるサイバーフィジカルシステム)に関する研究や、情報教育に関する研究にも従事しています。2025年1月現在、進行中のプロジェクトで言うと、広島国際大学の在籍時代に知り合った岩城教授(駒澤大学文学部生理心理学研究室)に助言をもらいながら、簡易脳波計測器を使った生体データの収集システムに関する研究(研究課題:Webカメラ及び脳波センサを用いたPCユーザの動態生理計測環境の開発)を進めています。



情報工学を選んだきっかけ
小学生のころから機械を分解したり、プラモデルやラジコンを作ったりするのが好きだったので、もの造りの分野に進みたいと思っていました。そんな中、テレビゲームが世の中に出てきて、ゲームも好きになり、そこを入口としてコンピュータにも興味を持ち始めました。大学選びのときは、物理的に物を作る「工学」とプログラミングでソフトウェアを作る「情報学」の2分野を進路に選択し、結果として広島市立大学の情報科学部に入学しました。その後、3年次生の研究室の選択では、当時はバーチャルリアリティに興味があり、その研究室を選択しましたが、指導教官と話し合っているうちに、話題に出てきたコンピュータグラフィックスなどのデータ管理の手法に興味が出て、それを研究テーマにすることにしました。それが前述した「コンピュータのデータ管理に関する研究」になります。大学院時代から、データを管理する側の仕組みに関して研究してきましたが、近年では色々な情報機器が小型化し安価になってきたので、管理される側の情報端末機器を物理的にも構築することが個人単位でも可能になってきました。プログラミングでソフトウェアを開発することもできるし、情報機器を使って物理的な情報システムを構築することもできるので、ソフトウェアとハードウェアを取り扱う「情報工学」を研究できる今が一番充実しています。

情報工学の主な実績
これまでの業績として、20件以上の論文、50件以上の講演・口頭発表があり、10件以上の外部資金を獲得しています。その他、学会の発表賞やNPOのインストラクタ賞などを数件受賞しています。
直近のものでは、広島国際大学の在籍時代に知り合った越智准教授(大阪工業大学情報センター)と一緒に手指の動作や視線の移動といった入力時の動作様態と、入力の結果を包括的かつ低コストに収集する汎用的な手法(科研費助成 研究番号20K12100)について研究しました。研究では、機械学習を使った手指と表情の動態認識システムの改良と収集したデータの分析に携わりました。

少し前のものでは、第四次産業革命スキル習得講座認定制度プログラム(経済産業省)や高度IT技術を活用したビジネス創造プログラム(厚生労働省)に関連した教材開発にも携わりました。開発では、小型マイコンボードを使ったIoT(Internet of Things)に関する教材コンテンツやシングルボードコンピュータを使った機械学習に関する教材コンテンツなどの開発に携わりました。

最近の話ですが、地元の高等学校からの大学への依頼に応える形で、2022年度に施行が開始された新学習指導要領で新たに設けられた必修科目「情報I」の解説講演に呼ばれました。そこで高等学校教諭の方と情報教育について話していると、高等学校における情報教育の課題点を聞き、何か自分にできることはないかと思案しているところです。

情報工学から日々の生活に活かせること
私は、どんな学問であれ皆さんが誠実に向き合って努力した学問は、必ず皆さんの生活に活きてくると思っています。ここでは情報工学について見ていきましょう。
現在、人々の生活は情報技術によって支えられています。2000年以降に生まれた人は、生まれたときから身のまわりにインターネットが存在し、物心がつく前にスマートフォンやタブレットなどの情報端末を使っていた人も多いかと思います。学校ともWebシステムでやり取りしたり、友達ともスマートフォンのSNSで繋がったりといったように、連絡だけでなく、お店の予約や旅行の下調べ、日々のエンターテイメントなど、生活の中のあらゆることが情報機器やインターネット、ネットワークによって支えられて動いています。また、2022年以降は色々なシステムに人工知能(AI)が搭載され始め、ニュースなどで「人工知能」「AI」の文字が飛び交っているのに驚いているのではないでしょうか。このように、情報技術は現代社会を支える基盤の1つであると同時に、皆さんの生活を変革する要因の1つにもなり得ます。情報技術について学ぶことは、皆さんの日々の生活を便利にしているツールの操作に活かせるだけでなく、情報の取り扱い方の理解や、さらには情報や情報手段を主体的に選択し、収集活用するための能力と意欲(いわゆる情報リテラシー)を身に着けて、皆さんの人生をより豊かなものにすることにもつながると思います。
日々の生活における私自身の実感としては、日々の生活でアプリケーションやインターネット、情報機器の利用や設定で困ったことはありません。自分の使いやすいように色々とカスタマイズをしています。また、機器の操作方法や情報システムの設定、PCを使った資料作成、迷惑メールやセキュリティの対応などといった家族の相談にもすぐに対応して解決できています。世の中の技術発展や業務システムの変遷に問題なくついていけますし、公私において情報技術の重要性は今後ますます増大していくなか、技術的に取り残される心配が全くない点は良かったと思います。また、新しい情報技術や情報機器を見るとワクワクできることも良かった点だと思います。逆に悪かった点は、PCの前にずっと座って作業するので、眼精疲労と腰痛に悩まされていることです。仕事面については言わずもがなですが、AIや機械学習、データサイエンスなどの情報技術を利用できるようになることで、様々な分野への貢献が可能性となることが最近感じた最も良かった点になります。

情報工学に関心のある方へのアドバイス
前述したように、情報技術は社会基盤の1つであり、今後無くなることは無いですし、AIのように技術革新のたびにその重要性は増していくと思います。世の中に情報や情報技術があふれるなか、多くの人は情報を消費する側だと思いますが、情報技術を学ぶことで情報を生産する側に立つことができます。その情報を生産する側にも、ツールを使って基本的な生産活動をすることから、プログラミング技術を使って応用的な活動をしたり、AIを使って活動を効率化したり、世の中に無いものを自身で作り出して自由に活動したりといったように、できることが無限に広がっています。情報機器や情報システム、情報サービスに興味のある人、実現してみたいものがある人はぜひ情報工学への扉を開いてみてください。
2016年1月にスイスで開催された第46回世界経済フォーラム(ダボス会議)で第4次産業革命の理解が主要テーマにあがりました。その中で人工知能、IoT、自動運転、3Dプリンタ、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、材料工学、エネルギー貯蔵、量子コンピュータなどがキーテクノロジーとしてあげられましたが、その多くは情報技術そのもの、もしくは情報技術によって支えられています。世界的に情報技術が注目されているなか、日本政府も2021年の第6期科学技術・イノベーション基本計画において、国が目指すべき未来社会の姿(Society5.0)を「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と再表現しています。この実現には、「サイバー空間とフィジカル空間の融合による持続可能で強靱な社会への変革」が必要だと述べてあります。若い世代の人たちが、情報工学を学んで未来を築いていってもらえたらと思います。

