豊田中央研究所にて自動車の感性品質に関する研究・開発に従事したのち、愛知淑徳大学文化創造学部、名城大学理工学部を経て、情報工学部教授。

【名城大学 情報工学部 川澄未来子教授】感性工学に関する学びをインタビュー

名城大学 情報工学部の川澄未来子教授に、専攻とされている感性工学を中心にインタビューを行いました。感性工学に関して学びを深めたいと考えている方や、川澄未来子教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

川澄未来子教授のプロフィール

豊田中央研究所にて自動車の感性品質に関する研究・開発に従事したのち、愛知淑徳大学文化創造学部、名城大学理工学部を経て、情報工学部教授。ラジャマンガラ工科大学タニヤブリ校(タイ)客員研究員(2014-2015)、シンガポール工科デザイン大学(シンガポール)客員研究員(2021-2022)。博士(工学)(東京工業大学)。専門は感性工学、色彩工学。日本色彩学会理事、ラジャマンガラ工科大学タニヤブリ校カラーリサーチセンター国際顧問、科学技術交流財団中小企業企画委員、日本工学アカデミー中部支部運営委員、名古屋市や愛知県のICT活用検討委員など。

1. ご経歴と専攻分野

感性のエンジニアリングが専門

大学は数学科出身、大学院は物理情報システム専攻出身です。企業研究所でニューラルネットワークや色彩情報処理の研究に12年間携わった後に、大学教員になりました。専門は、人間の感覚や感性をモノづくりに活かす「感性工学」です。私は「感性のエンジニアリング」と呼んでいます。扱う対象は、クルマ、家電、キッチン用品、照明空間、Webサイトやスマホのインタフェース、化粧品、農作物、街の景観、スマートシティなど、多種多様です。学外組織との共同研究が多く、現在も、トヨタや日産系のサプライヤー、愛知県農業総合試験場、他大学や個人事業主の方々と連携しています。研究室側がもつ感性計量化・分析・設計の技術(シーズ)と、学外の社会課題(ニーズ)とがうまく結びついて共通の目標を成し遂げた時に、大きな醍醐味とやりがいを感じる分野です。

教育の面では、名城大学情報工学部および大学院にて、感性工学の講義科目、C言語のプログラミング実習科目、グローバルエンジニア教育の科目(海外研修)などを担当しています。

2. 専攻分野である感性工学を選んだきっかけ

企業との共同研究が中心

「選んだ」というより、最初の社会が企業研究所(豊田中央研究所:トヨタグループの中央研究所)で、配属された部署でたまたまニューラルネットワークや人間の情報処理に携わることになったのがきっかけといえます。ちょうどセルシオ(のちのレクサス)の研究・開発が始まった時代(1990年代の初めごろ)で、量産型の工業製品にも高級感やスポーティ感を自在にコントロールして付加価値をつけることを目指していました。感性工学というキーワードもその頃に出てきて、分野としても徐々に確立していきました。私は人の五感の中でもだんだんと視覚系、色彩系の研究に関わることが増えていきました。企業の研究者から大学の研究者に転身して以降も、自動車系メーカとの共同研究を軸に、研究室を運営しています。

豊田中研でニューラルネットワークを担当し始めた時、今では世界標準となったQRコードの開発に、同じグループの隣席の2名が取り組み始めたところでした。当時は工場内の物流での利用目的でしたが、将来インターネットやカメラ付きモバイルが普及する時代が来たら爆発的に活用が広がるだろうとワクワクした記憶があります。

3. 感性工学の主な実績

色彩科学の国際会議を名城大学に誘致

工業製品では、例えば、自動車のフロントグリルや車室内の照明空間の設計に関する印象構造に関する研究、内装部品や金属製品の表面の質感の向上を目指す研究などに取り組んできています。アグリテック分野も携わっていて、タイの大学とはスイレンの品種改良のための色彩分析、愛知県とは名古屋コーチンの卵殻の色彩や外観的特徴を品種改良の立場で計測・管理する技術開発に取り組んできています。最近は、感性の中では工学的に捉えるのが難しいとされる「美しさ」を定量化・モデル化する研究にも挑戦しています。いずれも、3DCGやVRなどの情報技術、視線や脳波や心理などの計測技術、統計解析やAIなどを使った分析技術などを駆使しています。

また、学術会議などの運営にも携わっていて、時には国際会議の実行委員長をすることもあります。

4. 感性工学で日々の生活に活かせること

タイの研究者と一緒にローカル料理を堪能・シンガポールのスタートアップ訪問

学生たちの研究活動では、エンジニアとして社会生活で必要となる一連のプロセス(従来研究の調査、仮説の立案、実験の企画、方法の選定、結果の科学的な分析や考察、報告の執筆、スケジュールや予算の管理など)を経験します。道なき道を切り開くのは容易ではありませんが、学外の研究者とも繋がりながら情報共有やディスカッションを繰り返し、役割を決めて一つのことを成し遂げる経験は、どの分野の社会でも即戦力となります。

また、この10年は海外研修を担当していて、毎年選抜した学生たちを「価値観を変える旅」に連れ出しています。生まれ育った環境を離れ、気候・言語・習慣・文化などが異なる世界に身を置くことにより、世界における自分の立ち位置に気づくことは重要です。情報工学は道具に過ぎず、社会課題と結びついて初めて世の中の役に立つため、日本で暮らしていると気づきにくい価値観や考え、多様な社会課題に出会う機会を提供しています。日系企業の工場やローカル企業なども訪問しますので、参加者それぞれの将来のキャリアビジョンにも影響を与えています。

5. 感性工学に関心のある方へのアドバイス

名城大学で社会人と学生によるアイデアソンを開催

モノづくりに興味がある人、日常で出会う体験を分析的に考えることが好きな人には向いている分野です。そして、横断的・学際的な学術分野なので、広く社会全体に関心の高い人たちが集まってきています。関係学会では、研究対象が、自然環境、都市環境、照明環境、建築、工業製品、美術工芸品、アパレル,肌・顔・化粧、言語、心理、教育、アート、広告デザインなど多様な領域にまたがっており、また、手法も、光学、工学、データ科学、心理学、脳科学などあらゆるアプローチの人がいます。携わっている職業も、研究・開発、デザイン,教育,コンサルテーションなど多彩です。さまざまな人たちと対話することが求められるので、工学といえどもリベラルアーツを身につけることは重要になります。

そして、何かの分野を極めて社会で経験を積んでからこの分野を学び直すケースも多いと思います。私自身も博士の学位取得は2人の出産を経て40代になってからでした。学びは何歳からでも始められますし、私もずっと、共同研究者や学生たちと共にアップデートを続けたいと考えています。

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