関西学院大学 理学部 数理科学科の山根英司教授に、専攻とされている数学を中心にインタビューを行いました。数学に関して学びを深めたいと考えている方や、山根英司教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
山根英司教授のプロフィール
1966年生まれ、 1989年東京大学理学部数学科卒業、1995年東京大学大学院数理科学研究科博士課程数理科学研究科修了、博士 (数理科学)。現在、関西学院大学理学部数理科学科教授。
ご経歴と専攻分野
1985年に東大の理科1類に入りました。進学振り分けの制度があって、2年前期が終わったところで学部・学科が決まります。私は入学した当初から数学科を志望しており、予定通り数学科に進学し、なんとか無事に数学者になれました。専攻分野は偏微分方程式論と数理物理学です。
数学を選んだきっかけ
微分積分と複素数は高校ではバラバラに習いますが、これらを組み合わせた複素関数論というものがあります。数学科に進学して2、3年生のときに一番面白かったのが複素関数論でした。また、超関数というものがあります。もともと物理から出てきたものですが、今では数学でも広く使われています。もっとも有名な超関数はディラックのデルタ関数です。 これは,x≠0 での値が0、 x=0での値が無限大で、積分したら1になるというものです。超関数の理論は大きく分けて2つあり、その1つは複素関数論に基づく佐藤幹夫先生の理論です。1/zという関数に注目すると、デルタ関数を厳密に説明できます。超関数を使って微分方程式論 (正体不明の関数の導関数に関する方程式があるときに、その関数を見つける理論) をうまく展開できます。私はもともと佐藤先生の理論に基づいて微分方程式について調べていました。後に少しずつ興味が変わってきましたが、複素関数論を使って微分方程式 (あるいは少し違う方程式) を調べることはずっと続けています。物理から出てくる方程式を調べるのはとてもおもしろいです。
数学の主な実績
ここ10年くらいでは可積分離散非線形シュレーディンガー方程式の解について、時間が大きくなるときの様子を調べました。 この研究で使った画像を添えます。複素数平面にうまく曲線を描くのが研究のポイントです。また、カマサ・ホルム型の連立微分方程式について、よい性質を持つ解が存在することを示しました。これらは物理と関係があります。
さらに、畳み込み方程式と呼ばれる積分方程式 (正体不明の関数を含む積分に関する方程式があるときに、その関数を見つける理論) について、特殊関数の知識を使って調べています。特殊関数というのは、重要性が認められて発見者の名前がついている関数のことです。重要だから英語ではspecial な関数と呼ばれています。「特別」と訳せばよかったと思いますが、昔の人が「特殊」と訳したのが定着しました。私はベッセル関数と呼ばれる特殊関数を使っています。そのうち他の特殊関数も使いたいと考えています。
専門知識を生かして、学部生向けの教科書・参考書や一般向けの啓蒙書を書いています。一番新しいのは 『手を動かしてまなぶフーリエ解析・ラプラス変換』で、たいへん好評です。今は『手を動かしてまなぶ偏微分方程式』を書いています。また、講談社ブルーバックスから『高校生のための逆引き微分積分』『関数とはなんだろう』を出しました。これら2冊を高校生の皆さんに読んでいただきたいです。
数学から日々の生活に活かせること
偏微分方程式論に限らず、数学を学んで良かったことについて述べます。言葉の意味 (定義) をはっきりさせて、正確に読み、書き、話す習慣が身についたのが良かったと思います。こういう習慣は数学以外でも重要だと考えます。
数学に関心のある方へのアドバイス
数学を学んだ人のうちで数学研究者になる人はほんの一部です。ほとんどの人は、数学を学ぶことでじっくり考える力を養って、さまざまな分野で活躍しています。コンピュータ関係が多いのですが、それに限りません。数学を学ぶときは先を急がず、きちんと理解しながら進むようにしてください。「こう書けばマルがもらえる」という態度ではなく、正しいとされることが本当に正しいことを確かめながら勉強してください。