中京大学 国際学部 国際学科の長滝祥司教授に、専攻とされている哲学・認知科学を中心にインタビューを行いました。哲学・認知科学に関して学びを深めたいと考えている方や、長滝祥司教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
長滝祥司教授のプロフィール
中京大学国際学部国際学科・中京大学大学大学院人文社会科学研究科教授
東北大学文学部社会学科心理学専攻卒業、同大学大学院文学研究科博士課程修了、日本学術振興会特別研究員PD、カリフォルニア大学バークレー校哲学科客員研究員、中京大学国際教養学部教授を経て、現職。
1. ご経歴と専攻分野
高校3年間は音楽に没頭し、ミュージシャンになりたいと思った時期もありました(ギターを弾いてました)。高校のバンド仲間のなかには、ミュージシャンになった友人たちもいましたが、そのひとたちから、ドリカムの中村さんが自分たちの高校の先輩だという話を聞きました。
大学の最初の2年間(教養部時代)は、文芸部に所属して小説(のようなもの)を書いたり、当時流行していた現代思想の勉強会などに参加したりしました(高校時代からの延長で、ロックやジャズのバンド活動も続けました)。
学部では実験心理学を学び、大学院では哲学を専攻しました。知覚と身体に関するテーマで博士論文を執筆し、博士号を取得しました。この論文では、哲学と心理学を横断するような領域を扱いました。その後、学振PD、カリフォルニア大学バークレー校哲学科研究員などを経て、現在、中京大学国際学部の教員をしております。専門は哲学と認知科学です。
そのほか、体育会サッカー部の部長をやりながら、サッカーのゲーム分析やコーチング言語に関わる研究をしています。毎年、Jリーグ等へサッカー選手を送り出しています。自分では、趣味で硬式テニスをやっています。
2. 専攻分野である哲学・認知科学を選んだきっかけ
人間の心の不可解さに興味をもち、「科学的に」心にアプローチしたいと思い、実験心理学を専攻しました。ですが、卒業論文の準備をしているとき、自然科学的方法論やそれに基づいた仮説検証型の研究でわかることが、自分の求めていた答えから少しずれていることに気づきました。
そのときたまたま出会ったのが、現象学を中心とする現代の哲学でした。そこでは、自分と似たような考えが少し難しい言葉で綴られおり、とても魅力を感じました。これが、心理学から哲学に専攻をシフトした理由です。先生方や先輩方からは、「心理学はアカデミックポストへの就職がとてもいいけど、哲学なんて就職先がないからやめたほうがいい」と言われました(笑)。
3. 哲学・認知科学の主な実績
研究実績は、哲学と認知科学を中心とするものです。以下に著書をいくつかあげますが、なかには、一般読者の方々を意識したものもあります。これらのほか、専門ジャーナルに掲載された論文や学会発表などが多くあります。いろいろな分野の研究者たちとグループを組織して共同研究をすることが、現在の私の基本的なスタイルです。以下が研究に関するWebpageです。http://openweb.chukyo-u.ac.jp/~nagataki/index.html
- 単著『メディアとしての身体:世界/他者と交流するためのインタフェース』東京大学出版会https://www.utp.or.jp/book/b607302.html
- 単著『知覚とことば:現象学とエコロジカル・リアリズムへの誘い』ナカニシヤ出版
- 編著『現象学と二十一世紀の知』ナカニシヤ出版
- 編著『感情とクオリアの謎』昭和堂
- 共著『心と社会 認知科学講座3』東京大学出版会
- 共著『心/脳の哲学』岩波書店
- 共著『心の哲学史』講談社、近刊
- 共著Postphenomenology and Media, Lexington Books
- 共著 The Evolution of Social Communication in Primates, Springer
- 編著 Emotion, Communication, Interaction, Vernon Press、近刊
一般の読者向けに書いたものを一部ウェブで読むことができます。
https://www.moderntimes.tv/contributors/Shoji-Nagataki
4. 哲学で日々の生活に活かせること
哲学は概念を使ったり作ったりしながら、いろいろな対象について考える学問です。ほかの学問と違って、対象についてはかなり自由に選択することができます。「◯◯の哲学」の「◯◯」に何を入れてもかまいません。私自身は、心と身体の哲学、AIの哲学、知的ロボットの哲学、暗黙知の哲学、正義の哲学、マインドリードの哲学、サッカーにおけるコーチング言語の哲学などの研究をしていますが、日常生活のことについてもいくらでも哲学することはできます。哲学的な概念を使って考えると、対象を少し厳密に論理的に分析することができます。これは利点だと言えます。
また、分野横断的にいろいろな学問領域のひとたちと交流することのできるのが哲学です。これは、もともと哲学が学問全体を意味していたことと関係していると思います。そうした交流は学問的発想を豊かにするためにとても大切なことですし、異分野の研究者と議論するのは、とても刺激的なことです。
5. 哲学に関心のある方へのアドバイス
何らかの対象(たとえば、仕事とか勉強、趣味などに関わるもの)に没入するだけでなく、そこから距離をとって、対象について考えている自分や、対象や自分の存在している世界について考えてみる、といったことに少しでも興味をもてれば、あなたは哲学することの入口に立っていると言えます。世間の価値を無意識に受け入れている自分、日々の生活に埋没している自分をメタな視点から眺めるために、少し立ち止まって考えてみてください。そして、周りのひとたちと議論してみてはどうでしょうか。
それから、ほとんどの学問領域に言えることですが、研究を通じて国内外の研究者たちと交流することができます。これは、人生をとても豊かにしてくれることだと思います。哲学を通じて、研究の世界にも足を踏み入れてみてください。