【浜松医科大学 細胞分子解剖学講座 瀬藤光利教授】解剖学・光量子医学に関する学びをインタビュー

浜松医科大学 細胞分子解剖学講座の瀬藤光利教授に、専攻とされている解剖学・光量子医学を中心にインタビューを行いました。解剖学・光量子医学に関して学びを深めたいと考えている方や、瀬藤光利教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

瀬藤光利教授のプロフィール

1994年 東京大学医学部卒業、1998年 東京医学部助手(2001年 東京大学医学博士取得)、2003年 生理学研究所助教授、准教授を経て、2008年~ 浜松医科大学教授に就任、2024年~ 光医学総合研究所 国際マスイメージングセンター 空間オミクス研究分野センター長・教授兼任。現在の主な研究内容は以下の通り。

1. オリジナルな質量顕微鏡等を駆使した空間マルチオミクスの開発と応用
2. オリジナルな翻訳後修飾UBL3ーexosomeを軸にした老化関連疾患の創薬

1. ご経歴と専攻分野

【略歴】
1994年 東京大学医学部医学科、ハーバード大学医学部(交換留学生)終了
1996年 東京大学病院研修終了 医学系大学院入学
1998年 東京大学大学院中退、助手
2002年 岡崎生理研助教授 ケンブリッジ大学派遣
2008年 国立大学法人浜松医科大学医学部 解剖学教室教授
2016年 国際マスイメージングセンター センター長 兼任
2021年 光量子医学推進機構 機構長 兼任
2024年 浜松医科大学 光医学総合研究所 国際マスイメージングセンター 空間オミクス研究分野 センター長・教授 兼任

【専門分野】
解剖学、光量子医学

2. 専攻分野(解剖学、光量子医学)を選んだきっかけについて、それぞれ教えてください。

当時はミオシンモータータンパク質群がすでに見つかっており、筋肉だけでなく内耳繊毛や神経の異常の原因遺伝子となることがわかってきていました。そこにキネシンモータータンパク質が見つかったころでした。キネシンモータータンパク質群もヒトの筋肉、神経、繊毛の異常疾患と何か関連があると考えそれらを研究していた大学院に進みました。キネシンタンパク質群の新しい遺伝子を探すテーマを与えられて二年間探したのですが、見つけることができず、大学院2年生頃、あきらめて臨床に戻ろうと思って解剖学の教授に相談したら、その先生の若いころ学位をとる以前からアシスタントプロフェッサーになって研究を続けた、君もアシスタントプロフェッサーになって解剖学実習を手伝ってほしいと言われて迷いました。

私は、当時28歳で、内科教授(当時 東京大学医学部学部長 矢崎義雄先生 心臓の筋肉の研究で著名)から、「38歳まで研究をやってみて内科に戻ろうと思ったら面倒を見る、40歳手前までやってみたら」と言われました。外科の加我君孝先生(内耳の繊毛の研究の実績あり)にも同じことを言われて、「給料をもらえるものならもらっておけばよい、いつでも戻ってきてOK」と言われてもう暫く研究を続けることにしました。

助手になったとたんにレビューの執筆の依頼も来るようになり、モータータンパク質の遺伝子変異群が変性神経疾患、カルタゲナー症候群と関連があるに違いないといった内容の単著のレビューにまとめたのは今思えば汗顔の至りです。もう学生ではなくなったので探索のやり方も自分で考えることにしました。当時勃興してきていたゲノム解析で探すことにし、またマウスとは別のモデル生物との比較ゲノム解析を取り入れました。そこで予言したことは助手時代の5年間に研究室で次々に見つかり、今では学部学生向けの教科書にも載っています。また、ゲノム解析で大規模オミックス解析の国際コンソーシアムに参加したことはその後の大変な財産になりました。

3. 進路を悩んだり、先生方のアドバイス等に支えられた時代があったのですね。次に、光量子医学についてはいかがでしょうか?

顕微鏡の研究室の助手時代にゲノム解析に出会ったことから、物理計測で知られる永山センター長の下でナノ形態生理学の助教授で独立することができました。そこで質量顕微鏡を発明したことによって、医工学や光量子医学でも知られるようになりました。浜松医科大学の光量子医学研究部門の教授として招聘されたことですっかり光量子の人になりました。

4. これまでの主な実績を簡単に教えてください。

大きく分けると、3つに分けられます。

1つ目はサイエンスで最初の10年くらいでしょうか、遺伝子探索の最後の時代にぎりぎり間に合って(ゲノム解析が終わったときに、狭義での新しい遺伝子の発見はもう無くなったわけです)、KIF17、TTLL7、Scrapper, UBL3などの遺伝子群を発見し、それらが神経細胞の老化制御に関わるメカニズムを明らかにしたことです。(Setou et al., Science,2000, Setou et al., Nature, 2002, Yao et al., Cell,2007,Ageta et al.,NatureComm2017)。

2つ目はテクノロジーで次の10年くらいでしょうか、質量顕微鏡を開発し, 量子生体領域を開拓支援したことです。質量顕微鏡法の開発から、国際マスイメージングセンターを設立しました。スタートアップのプレッパーズ社も設立しました。プレッパーズ社は主に薬物動態解析で製薬会社を通して社会に貢献しています。

3つ目は人材育成で20年以上のPIとしての中で、50名以上の博士を育て、20名以上の教授を輩出しました。さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」 研究総括、Q-LEAP調査分析業務アドバイザーに従事することで、研究室の中に留まらずに、量子生体の分野を盛り上げてこれたかと思います。

まだ定年まで10年ありますので、その間に新薬などの新しい治療法を出すことが目標でこの後述べます。

ーーーわかりやすく教えていただき、ありがとうございます。質量顕微鏡の開発がターニングポイントとなり、その応用で研究が広がり、今につながっているんですね

5. 今、一番力を入れている研究は何ですか?その研究が日々の生活に役立っている、または研究をしていてよかったと感じることがあれば教えてください。

母の病症がパーキンソン病からレビー小体型認知症に進行していて、治療法や診断方法、治療薬への期待がより身近な問題になり、研究のモチベーションが上がっています。現在、研究室のテーマのうち、約8割がそれにつながることをやっています。認知症のメカニズムを解明するには、神経細胞の知識も必要で光量子医学の臨床応用として、まさに専門分野が家族の将来的な治療に直結していると実感しています。さらに、誰もが年齢を重ねると病気になる確率が高まることから、将来の自分も関係しているとも言えますね。今後も、身近な人々や社会のために、寄与できることを模索し続けたいです。

ーーー研究成果が、社会貢献につながっていくのを実感できると、更にモチベーションが高まりますね。今後の成果も楽しみです。

6. 最後に、研究に興味・関心のある方へ、一言お願いします。

「我々のやっている研究に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。質量顕微鏡を使ったデータが欲しければぜひプレッパーズにご注文ください(笑)。研究室には、社会(企業等)に出てからも共同研究をしたい方、本業の知識をより深めるためにさらに勉強したい方など、色々なバックグラウンドを持った方が出入りしているので、ご自身の状況に合わせて、研究に携わることができます。大切なのは、好きな研究テーマでやるということですね。好きでないと続かないから。私の場合も、臨床に戻るか迷いながらも研究を続けてこられたのは、研究が好きだったからだと思っています。二年間の大学院生時代では成果が出なかったけど、今から思うと、短い期間で判断しなくてよかった。学生時代は一瞬、その後の人生は長い。

正直なところ、研究には運もあると思います。運がいい人との出会いが一番の運です。私はとても運がいいので、ここまで読んでくださったあなたもとても運がいいと思います。それを実際の人生にぜひ活かしてください。

ーーーたくさんの貴重なエピソードをお聞かせいただき、ありがとうございました。

インタビューアー:浜松医科大学 細胞分子解剖学講座 秘書 杉山由紀子様

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