富山県立大学 工学部 医薬品工学科 村上達也教授に、専攻とされている 薬物送達学を中心にインタビューを行いました。 薬物送達学に関して学びを深めたいと考えている方や、村上達也教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
村上達也教授のプロフィール

1998年博士学位(工学、京都大学)取得後、協和発酵工業株式会社東京研究所(当時)研究員、JST-SORSTポスドク(癌研究会癌研究所(当時))、藤田保健衛生大学(当時)総合医科学研究所助教、JSTさきがけ研究者(兼任)、京都大学物質−細胞統合システム拠点PIを経て、2016年から現職(富山県立大学教授、京都大学客員教授)。
ご経歴と専攻分野
学生時代には、工学研究科でありながら酵素反応の不安定中間体を調べるような基礎研究を行っていました。その反動もあって学位取得後、製薬企業に就職したのですが、今度は企業研究の不自由さを感じ、35歳まであと数年という段階でポスドクになる道を選びました(かなり迷いました)。その後、製薬会社時代の出向先大学の先生が、愛知県で教授に昇任されたことに伴い、私を教員として誘ってくださいました。そこで運良くJSTさきがけ研究者に採択され、さらに京大国際研究拠点にPIポジションを得ることができました。物質−細胞統合研究という学際領域研究に(真面目に)取り組み、良いご縁に恵まれたこともあり、一定の成果を上げることができました。ただし有期雇用教員でしたので、契約最後の1年間はかなりハードな日々を過ごしました。その年の秋頃に富山で薬学系の新学科が設立されることを知り、教授選を経て、現ポジションを得ました。
専攻分野(専門分野)は、薬物送達学です。大学の講義では、製剤工学、薬物送達学、生化学などを教えています。現在最も注力している研究は、眼疾患治療のための点眼剤と光治療のための注射剤の開発です。京大眼科の先生と共同で臨床開発を進めています。
薬物送達学を選んだきっかけ
現在行っている研究は、学生時代と製薬企業時代の経験が元になっています。学生時代に生物化学、製薬企業時代に薬物送達学と(出向先大学での)細胞生物学の研究を経験しました。愛知県でテニュアポジションを得たときにこれらの経験を元に独自の研究を始めたいと思い、遺伝子組み換えタンパク質と脂質を用いる今の薬物送達学研究をスタートさせました。その時の教授が、ご自身の専門分野と異なるにも関わらず、快くこのスタートを認めてくださったことに感謝しています。眼疾患治療薬開発研究には、京大で臨床医と知り合えたことが大きく影響しています。こうして振り返ると、良いご縁に恵まれたと感じます。
薬物送達学の主な実績
原著論文59報、総説論文8報(いずれも欧文誌)、著書(一部)3編、取得特許5報(うち国内4、米国・欧州1)、出願特許12報(国内外)
薬物送達学から日々の生活に活かせること
最近は遺伝子、タンパク質、ペプチドなどを有効成分とするバイオ医薬品が全盛です。それらの構造と性質、薬効発現・副作用発現のメカニズムを知ることができます。あと最近は実用化に向けた活動を行っているおかげで、創薬エコシステムの多様な関係者(産官金)と知り合う機会が増え、新しい刺激を受けています。最近創薬エコシステムの世界の中心地とされるボストン(MIT、ハーバード大がある)を訪問し、ピッチ(投資家に対するプレゼン)する機会も得ました。
薬物送達学に関心のある方へのアドバイス

薬物送達学は実学ですので、最終的には産業応用を意識して研究をすべきだと思います。そして薬物送達学研究は学際領域研究でもあります。同分野の先人の研究成果を(ある程度)学ぶことは必要ですが、それにとらわれず、最新の細胞生物学や疾患生物学の基礎研究成果なども学ぶことで、常に新しい「血」を自分に入れることが大切だと思います。一方で、日頃の研究の中で意図しないデータが得られたときには、一旦立ち止まり、何か新しい現象を見つけたかも知れない、とワクワクしてほしいと思います(大体は単なるネガティブデータに終わると思いますが)。最後に、この分野で将来アカデミアを目指す学生さんは、英語力を鍛えて(試験があります)、アメリカで博士学位を取ることを強く勧めます。最大の創薬エコシステムを有するアメリカで、そのネットワークに早いキャリアのうちから入ることは、皆さんの将来の可能性を大きく広げると信じています。