石川工業高等専門学校一般教育科専任講師、近畿大学理工学部専任講師・准教授を経て、2022年より同大学理工学部教授。この間、ライプニッツ・ハノーファー大学客員研究員を歴任。博士(理学)。物性物理学の理論を専門。著書に『量子流体力学』(丸善出版)、『ファンダメンタル物理学 –力学– 』『ファンダメンタル物理学 –電磁気・熱・波動– 』(共立出版)がある。

【近畿大学 理工学部 笠松健一教授】物理学に関する学びをインタビュー

近畿大学 理工学部の笠松健一教授に、専攻とされている物理学を中心にインタビューを行いました。物理学に関して学びを深めたいと考えている方や、笠松健一教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

笠松健一教授のプロフィール

石川工業高等専門学校一般教育科専任講師、近畿大学理工学部専任講師・准教授を経て、2022年より同大学理工学部教授。この間、ライプニッツ・ハノーファー大学客員研究員を歴任。博士(理学)。物性物理学の理論を専門。著書に『量子流体力学』(丸善出版)、『ファンダメンタル物理学 –力学– 』『ファンダメンタル物理学 –電磁気・熱・波動– 』(共立出版)がある。

1. ご経歴と専攻分野

大阪市立大学(現在、大阪府立大学と統合し、大阪公立大学)理学部物理学科に入学し、4年生の卒業研究ゼミでは物性理論を扱う素励起物理学研究室に所属しました。そこで、超低温に冷却された中性原子気体という物理系が研究対象として存在することを知り、冷却原子気体で実現する超流動現象の理論的研究を行いました。大阪市立大学大学院にて博士(理学)の学位を取得後、日本学術振興会特別研究員を経て、石川工業高等専門学校の専任講師に採用されました。

その後、近畿大学理工学部に赴任し、現在に至ります。この間も超流動現象に対する興味は尽きることはなく、現在もその内容について近畿大学の学生さんと共に研究を進めています。最近は冷却原子気体を用いた量子シミュレーションと呼ばれる研究や、機械学習を用いた物理学の研究に興味をもっています。

2. 専攻分野である物理学を選んだきっかけ

中学生のときに「新スパイ大作戦」(その後、トムクルーズ主演のミッションインポッシブルという映画シリーズになった)というアメリカのシリーズドラマを楽しみに見ていました。スパイのチームが電子機器やコンピュータなどのハイテクを使用して悪の組織を壊滅させていく内容を観て、それらを使うような仕事に憧れをもつようになり、それが理系に進むきっかけであったと思います。

その後、電子エレクトロニクス、半導体技術、広く物質科学に興味をもって物理の勉強を進めていきました。私は暗記する勉強が苦手だったのですが、物理は基本的な原理や法則を知っていれば、それを様々な状況に適用すれば問題が解けるところが楽しく、高校時代の得意科目でした。大学に入り、3年生になってようやく物性物理学という専門科目を受講できるようになったときは喜びがありました。

3. 物理学の主な実績

超流動とは流体の粘性がなくなった流れの状態のことを指し、20世紀初頭に絶対零度に近い温度まで冷却された液体ヘリウムがそのような性質を示すことが発見されて以来、現在も活発に研究されている現象です。超流動に似た現象として、超伝導(電流が抵抗なしで流れうる)があり、後者の方が実用性の面から知名度が高いです。1995年に冷却原子気体の量子凝縮相が実験的に実現し、超流動を研究する新しい舞台を人類は手に入れました。物性理論の難しい面は物質を構成するミクロ粒子の間にはたらく相互作用の取り扱いにあります。気体は液体と違って希薄なので、原子間の相互作用が弱く、超流動の理論研究を行うにあたって取り組みやすいというメリットがあります。

私が行った研究では、超流動体で実現する渦の運動に関して、いくつかの新しい知見を発見しました。超流動体中の渦は「量子渦」と呼ばれ、渦巻の流れの循環が(プランク定数)/(粒子の質量)という物理の基本定数で決まる値の整数倍に限定されるという特徴をもっています。これまでの研究により、回転する容器に入った冷却原子気体の超流動体にどのように量子渦が生成するのか、種類の異なる超流動体の混合で実現する量子渦はどのような構造になるか、量子渦が絡み合った量子乱流がどのような性質を示すか、などを議論しました。それらの内容の一部に関しては書籍「量子流体力学」にまとめています。

4. 物理学から日々の生活に活かせること

自然現象はすべて物理法則に従っています。身の回りでおこる現象や不思議なことを物理的観点から理解できれば、自分の生活に大いに役立つことは言うまでもありません。またそれによって、自分が住む世界の見方や自分の価値観に変化があれば、人生がより豊かなものになるのではないでしょうか。

物理学は自然を説明するために、実験的事実から得られる原理から出発し、数学を用いた論理的考察を経て、自然現象を説明します。座学で勉強する段階でそれを意識することは難しいですが、研究しその成果を公表する経験から、物事を論理的、合理的に考える習性が自分についたと感じています。それは日々の生活で大いに役立つ場面が多いです。

5. 物理学に関心のある方へのアドバイス

物理学という学問は自然科学の礎をなす学問であり、その考え方は様々な分野に適応できます。社会に出ると様々な性質をもつ問題に直面し、それらに対して柔軟に対応していく必要がありますが、それには土台となる基礎力が最も大事であると考えます。物理学はそのような基礎力を培うために最も適した学問であると考えます。

物理学の魅力はその学問体系に普遍性があることです。物質でおこる現象の中には素粒子論や宇宙論で知られる現象と類似性をもつものがあり、我々の身近にあるものを用いて超微小または超巨大な世界の様子を調べることも可能です。近畿大学物理学コースの入学生にこの学科に入ったきっかけは何ですかと聞くと、宇宙や素粒子に興味があるという学生さんは多いですが、物性に興味がある学生さんは少ないです。物理を勉強するにあたって、是非とも視野を広くもって取り組んでもらいたいと思います。

 物理学の研究は現在も加速度的に進展していますが、その研究成果は私たちの日々の生活の発展に直結するものではないかもしれません。しかしながら、自然現象はすべて物理法則に従っており、物理学の研究で生まれる新しい概念の積み重なりは、自然の中で生きている我々の生活に確実に影響を与えるものであります。新しい知識が得られれば新しい技術が生まれ、新しい技術から新しい知識が得られます。この循環がある限り物理学の発展は絶えることはありません。学生の皆さんもぜひ新しい発見を目指して様々なことにチャレンジしてもらいたいと思います。

関連記事

  1. 【ケンブリッジ大学 東アジア研究 ブリギッテ・シテーガ教授】日本学に関する学びをインタビュー

  2. 【京都大学大学院工学研究科 藤井聡教授】都市社会工学に関する学びをインタビュー

  3. 【学習院大学 経済学部 経済学科 鈴木亘教授】経済学に関する学びをインタビュー

  4. 【法政大学 理工学部 石井千春教授】ロボット工学に関する学びをインタビュー

  5. 【東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 饗庭伸教授】都市計画学に関する学びをインタビュー

  6. 【香川大学 経済学部 西成典久教授】都市計画に関する学びをインタビュー

  7. 【名古屋市立大学大学院 経済学研究科 坂和秀晃准教授】経済学に関する学びをインタビュー

  8. 【東北大学大学院経済学研究科 小田中直樹教授】経済史に関する学びをインタビュー

  9. 【千葉大学大学院 人文科学研究院 一川誠教授】人文科学に関する学びをインタビュー