東洋大学 国際観光学部の古屋秀樹教授に、専攻とされている観光学を中心にインタビューを行いました。観光学に関して学びを深めたいと考えている方や、古屋秀樹教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
古屋秀樹教授のプロフィール
1968年埼玉県生まれ。1993年東京工業大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。筑波大学講師などを経て、2008年より東洋大学国際観光学部教授。専門は観光地域計画、観光行動分析。ICTを活用した訪日外国人動態調査検討会委員、持続可能な観光指標に関する検討会委員、日本版持続可能な観光ガイドラインアドバイザー(観光庁)、日本観光振興協会客員研究員、(一社)サステナビリティ・コーディネーター協会理事 等を務める。
1.ご経歴と専攻分野
経済学や経営学といった既存学問を縦糸とすると、「観光」はそれらを横から串刺しするような横糸とみなせ、いわゆる「テーマ・研究対象」に相当するといえます。そのため、「観光」に対して経済学や社会学等の文系の観点から、もしくは理系である工学や農学からアプローチするのか学問分野は様々です。私は、交通計画や都市計画に加えて、旅行者の行動をモデル化して考える土木計画学(工学)が研究の出発点です。
卒業論文で富士五湖の道路混雑の解消を念頭に、所要時間情報の提供が混雑緩和に与える影響を、大学院では休日制度の充実や人々の所得の上昇が観光需要に及ぼす影響の推定を行いました。大学院修了後は、助手(山梨大学工学部)や講師(筑波大学社会工学系)として経済波及効果分析、首都圏の人口推定や交通需要推定、さらには都市計画における住民参加を研究しました。これらは、現在の仕事の基礎になっている重要な部分と言えます。
2.観光学を選んだきっかけ
昭和43年生まれの私が物心ついた当時、公害問題が世の中で叫ばれ、光化学スモッグで喉が痛くなったり、排煙や排水で環境汚染が進む光景を見る機会が多かったです。埼玉県のお茶畑に囲まれた地域に育った私にとって、「環境保護」は大きな関心であり、子供心になんとかしないと、と感じたのかもしれません。大学では「環境整備工学科」に所属して、環境と折り合いをつけながら交通や都市活動を如何にマネジメントすべきか研究するために土木計画学を選びました。その研究対象の1つが、観光地をより良くする「地域計画」であり、現在は持続可能な観光の実現にむけた「観光地域計画」を研究しています。
3.観光学の主な実績
現在は、オーバーツーリズムや持続可能な観光について研究しています。観光庁による「日本版持続可能な観光ガイドライン」の策定に参画しました。そこでは、持続可能な観光を実現するための手続き、留意点を検討しましたが、それと関連する来訪者の流動や満足度の評価、観光が地域に及ぼす経済波及効果の推定、住環境に対する地域住民の評価を考慮した地域計画について研究しています。最近は、エビデンスに基づく政策立案が求められているため、定量的なデータを用いた分析を行い、地域経営の意思決定を支援できるように心がけています。あわせて、欧州では持続可能な観光について関心が高いことから、先進的な取組みが多く、それらもあわせてチェックしています。
さらに、観光地域計画を考える上で、旅行者の需要を把握する必要があるため、携帯電話の位置情報データをはじめとするビッグデータを用いた行動分析にも取り組んでいます。訪日外国人旅行者が訪問する都道府県の組み合わせから旅行意向・関心を類推することや、市町村別の来訪者数・消費額の推定も行っていますが、これらはデータサイエンスの一部に相当します。
4.観光学から日々の生活に活かせること
地域計画の策定では、観光に従事する宿泊業や旅行業、交通産業の方や、地域住民や行政、観光振興組織の方から直接、意見を伺うことができます。各々の立場からの視点や判断材料などが異なり、物事を多角的、包括的に捉える勉強になります。また、ビジネスである部分も大きいため、経済や経営の観点の重要性を改めて感じるとともに、研究の知見を提供できるように情報収集を行いながら、最新の分析手法の適用を心掛けています。
また、観光に関わっていると、魅力的な地域を訪問できる楽しみもあります(笑)。連綿と続く時間の中で、人や自然の大きな営みによって地域が形成されることに思いを馳せるのも楽しいものです。それらを旅行者と分かち合えるような効果的なガイドやインタープリテーションがより良い観光地を後世に残せる一つの手段かもしれません。
5.観光学に関心のある方へのアドバイス
「観光」というと宿泊業や旅行業をイメージすることが多いですが、住民にとって望ましい地域整備や公共空間である観光地のマネジメントを研究対象とする領域があり、より良い地域づくりに向けた仕事を通じて大きな働きがいを感じることができます。地域計画の策定では、交通や地域計画といったインフラストラクチャー計画に加えて経済学、旅行者心理、情報処理に加えて、地理学や歴史も地域を包括的に捉えるためには必要不可欠といえるでしょう。観光は確立した学問ではないため、学際的な素養と、広い関心と興味を持つことが大切といえます。
かつてApple社を率いたスティーブ・ジョブズ氏は講演で、「点と点をつなげる」ことの大切さを指摘しました。1つ1つのしっかりとした学びが、時間を経てそれらが結びつきをもったネットワークとなり、自分の仕事の糧になります。楽しく興味を持って深く取り組むことが、次に繋がることを信じて「学び」をつづけて下さい。
また、同氏は「ハングリーであれ。愚か者であれ。」とも言いました。わたしは「事態はまだまだ良くなるはずだ、自分にはできるはずだ、という確信のない自信を持って進むこと」の大切さと解釈しながら、関係する方々と現状の問題や課題について真摯な意見交換からブレークスルーを行い、よりよい観光地域計画の策定に寄与していきたいと考えています。