2013年-現在 上智大学理工学部機能創造理工学科低温・超伝導物性グループ 輸送特性とミュオンスピン緩和による機能性材料の電子・スピン状態の研究。

【上智大学 理工学部 足立匡教授】物理学に関する学びをインタビュー

上智大学 理工学部の足立匡教授に、専攻とされている物理学を中心にインタビューを行いました。物理学に関して学びを深めたいと考えている方や、足立匡教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

足立匡教授のプロフィール

2001年-2013年 東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻低温・超伝導物理学分野 銅酸化物、鉄系超伝導体の電子状態について研究。2006年-2007年 Physics Department, Simon Fraser University ラマン散乱による銅酸化物超伝導体の電子状態に関する研究。2013年-現在 上智大学理工学部機能創造理工学科低温・超伝導物性グループ 輸送特性とミュオンスピン緩和による機能性材料の電子・スピン状態の研究。

1. ご経歴と専攻分野

1992年、東北大学工学部に入学し、2年生の学科配属で応用物理学科に進みました。4年生で低温・超伝導物理学研究室に入り、電気抵抗がゼロになる不思議な現象に魅せられて研究を続けました。博士の学位を取得したのちに、東北大学の助手として採用されました。その後、2013年に上智大学に赴任し、現在に至ります。この間、カナダの西海岸にあるサイモンフレーザー大学に客員研究員として在籍したり、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所や東北大学金属材料研究所で客員教授を務めたりしました。

学生時代から一貫して超伝導の研究を続けています。研究の方針は、超伝導を示す物質の開発と超伝導の発現メカニズムの解明です。自分たちの手で物質を合成し、いろいろな物理量を測定して、物質の中で何が起こっているか、電子がどのように振る舞うことで超伝導などの機能が発現するのかを考え、その結果をもとに更なる研究を展開しています。扱っている物質は、銅の酸化物、鉄の化合物などの高温超伝導体、最近ではニッケルの酸化物や金属間化合物などもあります。実験手法はいろいろありますが、私の研究室では、素粒子であるミュオンを使って物質の中の磁気的な性質や超伝導の性質を調べるミュオンスピン緩和法という実験を一つの武器にしています。

2. 専攻分野である物理学を選んだきっかけ

高校2年生で理系クラスに入ったものの、どんな大学でどんな勉強をしようか明確なビジョンがないまま過ごしていましたが、あるとき受験雑誌をパラパラと見ていたら、超伝導の研究をしている大学生のコラム記事に目がとまり、そこから超伝導の研究に興味を抱き始めました。液体ヘリウムや液体窒素を使う超伝導の研究は私にとって斬新だったからかもしれません。そのコラム記事を書いた方が応用物理学科に所属していたので、応用物理学科を探して東北大学に入りました。(もちろん、理学部などでも超伝導の研究はやっていますが、当時はそんな知識もなく)。研究室に入ってみたら、まさにそこがコラム記事を書いた方が所属していたところだったと驚いたのを覚えています。

超伝導の研究は面白かったです。電気抵抗がゼロになるというわかりやすい性質、にもかかわらずそのメカニズムは深遠であること、電気抵抗ゼロの性質を使った送電ケーブルによる省エネルギーやリニア新幹線による短時間大量輸送、MRIによる人類の健康への貢献など、人間生活に与える影響が多大であることも魅力です。未来のエネルギー源である核融合の研究や素粒子物理学の実験にも欠かせません。私のライフワークたるゆえんだと思います。

3. 物理学の主な実績

世界中の多くの研究者が取り組む超伝導の研究の目標は、高温超伝導(比較的高い温度で発現する超伝導ですが、現在、1気圧では最高でもマイナス140℃以下に冷やさないと超伝導は現れません)の発現メカニズムの解明と、室温で超伝導になる物質の開発の二つです。どちらも、達成できれば翌年にノーベル賞は間違いないと言われています。

私は、銅酸化物の高温超伝導の発現メカニズムを解明する研究を長らく続けてきましたが、その中で、超伝導を担う電荷キャリアがホールである銅酸化物において、不純物を導入するとホールと原子のスピンが互いに絡み合った状態(ストライプ秩序)が安定になり、超伝導が破壊されることを見出しました。このことから、ストライプが不安定な状態(ストライプゆらぎ)が高温超伝導の発現に関わっている可能性が高いことを指摘しました。

また、電荷キャリアが電子である銅酸化物において、物質に意図的に電子を注入しなくても超伝導が現れるノンドープ超伝導という現象を解明するために、純良試料を作製し、物質の酸素の量をコントロールする方法を開発して様々な物理的性質を詳しく調べ、ノンドープ超伝導の発現メカニズムを提案しました。この研究がきっかけになって、国内外でノンドープ超伝導の研究が活発に行われました。

どちらの研究においても、ミュオンスピン緩和実験が威力を発揮しました。

4. 物理学で日々の生活に活かせること

物理学は論理的にものを考える学問なので、仕事上はもちろんのこと、普段の生活からそのような思考が働いていると思います。たぶん、人生は豊かになっているでしょう。また、自然科学の基本はいろいろなことへの疑問から始まります。普段からなぜだろうと思うことは多く、それを解明すると多かれ少なかれ喜びを感じるし、これもまた楽しい人生をもたらしていると感じます。

ミュオンを使った研究は国内だけでなく外国の実験施設(イギリス、スイス、カナダ)で行うこともあるので、世界の研究者とつながるようになりました。一般の研究者が国際会議などで外国に行くよりも多く渡航しているので、様々な文化や価値観に触れあう機会にも恵まれ、充実した日々になっています。

5. 物理学に関心のある方へのアドバイス

会社に入ったら、お金になる研究や開発をする必要があるので、なかなか基礎的な研究はできません。基礎をおろそかにしたら応用はできませんから、大学時代は基礎を固める大切な時期です。もちろん、大学で学んだこと、大学で行った研究がそのまま社会で使えるとは限りません。でも、学んだ分野はあまり関係なく、いかに論理的な思考力を身につけたかが大事です。その分野の世界の状況を把握し、明確な目標を立て、その方法を検討し、実験や計算を行い、結果を考察して次の研究につなげるという基本を身につけていれば、どんな分野でもやっていけますし、そのような人材を社会は求めていると思います。だから、大学時代は自分が興味あるテーマを自由に研究するといいと思います。

私が関わっている超伝導の研究には夢があります。発現メカニズムの解明と室温超伝導物質の開発という明確な目標があります。これらが実現すれば、社会は変革します。そんな魅力ある研究テーマに多くの若い方が取り組んでくれることを期待しています。

最後になりますが、社会に出てからも自由に研究ができる仕事、それは大学の教員です。頭が柔らかくて活力ある学生さんと一緒に進める研究はやりがいがあります。選択肢として考えてみてください。

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