【金沢工業大学 工学部 工学研究科 田中基嗣教授】工学に関する学びをインタビュー

金沢工業大学 工学部 工学研究科の田中基嗣教授に、専攻とされている工学を中心にインタビューを行いました。工学に関して学びを深めたいと考えている方や、田中基嗣教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

田中基嗣教授のプロフィール

京都大学工学部機械工学科のメゾ材料評価学研究室にて研究活動をスタート。繊維強化複合材料の破壊に関する研究で、博士(工学)取得。京都大学大学院工学研究科附属メゾ材料研究センター研究機関研究員(2001-2002)、京都大学大学院工学研究科助手(2001-2007)を経て、2007年4月に金沢工業大学に着任。その間に、複合材料の機能創製だけでなく、バイオマテリアル・バイオメカニクスにも研究分野を広げる。工学部航空システム工学科 講師(2007-2010)、工学部機械工学科准教授(2010-2015)、工学部機械工学科教授(2015-現在)。日本複合材料学会理事および東海北信越支部長や、日本材料学会生体・医療材料部門委員会部門委員長など。

ご経歴と専攻分野

大学・大学院の学生時代から、一貫して機械工学に携わっています。特に、京都大学の4年生時に複合材料(2種類以上の素材を組み合わせて新しい特性をもたせた材料のこと)の研究室に配属になってから、複合材料の破壊や新しい機能の付与などの研究を継続・発展させてきました。また、京都大学の助手時代に同じ研究室に着任された准教授(当時)の先生がバイオメカニクスをご専門とする先生でしたので、細胞培養をはじめとしたバイオメカニクス研究のやり方をご教授いただきました。2007年に金沢工業大学に着任して自分で研究室を主催できるようになってからは、「複合材料」と「バイオメカニクス」を2本の柱として、将来的にはこれらの分野を統合することで、生体組織や細胞に学んだ「賢い」複合材料や再生医療などに役に立つ複合材料を創製・設計するための新しい学問領域を構築することを目指しています。自分たちで考え出したアイデアを基に、これまでに存在しなかった機能を持つ新しい複合材料の実現可能性を検討する取り組みなので、そんなに簡単には前に進みませんが、その中で次のステップに進むためのヒントやきっかけを見出す瞬間に、研究者としての喜びを感じます。

教育の面では、金沢工業大学工学部機械工学科および大学院高信頼ものづくり専攻にて、機械工学の基礎科目(工業力学や材料力学)、シミュレーション技術、複合材料学などに関する科目を担当しています。

工学を選んだきっかけ

大学進学時に機械工学科を選んだのは、中学生のころからF1エンジニアに憧れはじめたのがきっかけでした。F1マシンは、材料学・流れ学・熱力学・制御工学などといった機械工学の基盤的な知見の集大成とも言えるものであり、機械工学科で学ぶことができれば、いつかはF1マシンのどこかの部分の開発に取り組めるのではないか、と想像したからです。実際に大学で専門科目を学び始めたところ、これらの基盤科目の中でも材料学が一番しっくりくる感覚を持ちましたので、研究室選択にあたっては材料学の研究室の中から選ぶことにしました。その中でも、私の恩師のお二人(落合庄治郎教授(当時)・北條正樹助教授(当時))は、新しく京都大学工学部機械工学科で研究室を主催されてまだ2年しか経っておらず、当時の新素材である「複合材料」を専門とする研究室でしたので、「新しい」先生たちと「新しい」テーマに取り組めると感じて、落合先生・北條先生の研究室を選びました。北條先生が独立されてできた研究室の助手となった後に着任された安達泰治准教授(当時)が細胞バイオメカニクスやバイオマテリアルをご専門とされていましたので、バイオマテリアルの取り扱いや細胞培養の仕方などをご教授いただいているうちにバイオの研究にもはまって、その両方を結びつける研究をしたいと考えるようになりました。

工学の主な実績

いずれのテーマの成果もまだまだ実用化には遠いですが、「複合材料」分野の研究としては、丈夫で長持ちするだけでなく廃棄時にはすみやかに分解吸収される機能をもった地球環境に優しい複合材料の創製、大型で複雑な複合材料構造を一体成型できる成形技術の確立、などといったテーマに取り組んでおり、これまでの複合材料研究の経験を活かして、様々なナショナルプロジェクトに参加して、日本における複合材料の発展と実用化に寄与することにも取り組んでいます。います。また、「バイオマテリアル」分野の研究としては、骨欠損部機能を高度に代替するだけでなく骨形成速度に応じて体内で安全に分解吸収される骨再生医療用複合材料の創製などに取り組んでいます。さらに、これら2つの分野の間をつなぐ研究テーマとして、繰返し完全に自己修復可能な複合材料の創製、骨組織そのものを人工的に創り出す技術の構築、などに取り組んでいます。

工学から日々の生活に活かせること

まず大前提として、いずれの専攻分野であっても、研究活動をおこなう上では、従来の研究成果を充分調査したうえで社会的なニーズを分析し、研究テーマを定める必要があります。我々の研究室では、その中でも、「複合材料」や「バイオマテリアル」といった分野においてすでに生じているあるいはすぐに考え付くようなニーズではなく、「こんな材料があったらいいのに」という潜在的なニーズを新しく「掘り出す」ことを心がけています。さらに、正しく仮説を設定し、それを証明していくための方法を正しく計画し、場合によってはまったく新しい方法を構築していく必要があります。得られた結果に対して正しく考察を加え、さらにその次のステップの仮説を導き出し、これらのプロセス・成果を正しく報告する必要があります。この一連のプロセスにおいて、我々の研究室では学生さんにあらかじめ答えを与えすぎず、進捗(なかなかうまく進まないことも、それが難しいことがわかったという「進捗」とみなします)があったときに学生さんから指導教員を捕まえて(学生さん向けに公開している指導教員の詳細なスケジュールカレンダーを見て、打合せ時間を学生さんから指導教員に提案するようにしています)ディスカッションをすることで、学生さんの自主性を引き出すように心がけています。これらの経験は、即戦力の技術者となる上で必須のものと考えます。

また、研究室の活動としては、新型コロナウィルスの流行によってしばらく実施できない期間が続きましたが、春・秋に学内のお知り合いの先生方とその研究室にお声がけして100人以上の規模のバーベキュー大会を主催するとともに、夏・冬には研究グループのメンバーでコテージに泊まっての合宿(毎回テーマとなる料理や食材を考えて、みんなで手分けして作って食べて楽しみます)を実施してきました。これらの活動においては、立案だけでなく会計も学生さんたちに相談してもらって進めています。特に会計については、赤字にならず、かと言って大きな黒字も出さないような会費の設定がかなり難しいですが、これまでの先輩たちのノウハウなども活かして、毎回素晴らしい会費設定を実現しています。このような経験は、社会人として役立つだけでなく、日々の暮らしでも活かすことができるものと考えています。

工学に関心のある方へのアドバイス

「あらかじめ答えの用意されていない問題」に対して,適切にアプローチし,解決することができる能力は,研究者・社会人として,従来にないものを創製したり新たに判明した問題点を解決したりする上で等しく必要です。このような観点から、「研究を通した教育」は、今後の日本・世界の工学・技術を先導する人材を育成する絶好の機会であると考えます。我々の研究室では、本質を捉えた研究テーマの設定と、誰にも真似できないアプローチを通して、論理立てて思考する力・創造力・知的好奇心・粘り強さ・チャレンジ精神・自己管理能力・コミュニケーション能力に優れた人材の育成を目指しています。「複合材料」と「バイオ」の中間の新しい領域をターゲットとしていますので、チャレンジングな研究テーマがたくさん走っており、一歩進むと必ず新しい知見の鉱脈に当たりますので、自らの可能性を切り開きたいと希望する学生さんには向いているのではないかなと考えます。このようなテーマに取り組む際には、ややもすると目の前が霧にかかったようになかなか前に進まないタイミングが結構ありますが、新しいことに取り組む「勇気」を持って、その取り組み方を正しく設計して実行することができれば、必ず前に進むことができます。これらの活動を通してみなさんと一緒に地球と人類の存続に貢献したいと考えていますので、未知のものに対して不安を感じるのではなく、すべては自分次第だと信じて飛び込んできてほしいと思います。

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