【県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科 齋藤靖和教授】 農学(生命科学系)に関する学びをインタビュー

県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科 齋藤靖和教授に、専攻とされている農学(生命科学系)を中心にインタビューを行いました。農学(生命科学系)に関して学びを深めたいと考えている方や、齋藤靖和教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。

齋藤靖和教授のプロフィール

県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科 生命科学コース 教授。博士(生物生産学)。企業研究所勤務ののち2005年に県立広島大学生命環境学部助手として着任。その後、助教、准教授を経て2017年より教授。生命科学科長、生命科学コース長、大学院生命システム科学専攻長を務め、現在は大学院総合学術研究科研究科長、広島バイオテクノロジー推進協議会理事を兼任。

【専門分野】細胞機能制御学、細胞生物学、皮膚科学、酸化ストレス、抗酸化物質

齋藤研究室(細胞機能制御学研究室)ホームページ(https://www.pu-hiroshima.ac.jp/p/ysaito/
研究紹介動画(高校生向け)(https://www.youtube.com/watch?v=v_9k-kNjhEs

ご経歴と専攻分野

大学および大学院では、培養動物細胞を使った研究を行い、当時まだ分かっていなかった「ビタミンCはどのようにして細胞の中へ取り込まれ、高濃度に蓄積されるのか?」ということを解明するテーマに取り組みました。その後、一般企業へ就職し、角膜を中心とした研究に取り組んでいたところ、縁あって大学教員の道に進むことになりました。企業ではある程度の研究の自由さもありましたが、やはり営利が目的となるため、様々な制約を受けることもあります。その点、大学教員は自分の発想で自由に研究ができることが良いところで、私の場合は、得意な細胞レベルからの評価、解析を活かして「ヒトの病気や健康に関わること」を研究したいと考え、現在に至ります。

私の専門、専攻分野は細胞生物学と薬理学を融合させた領域で「細胞機能制御学」としています。特に「老化」、「がん」、「皮膚機能」について、人の手で制御(コントロール)できるだろうか?我々の暮らしに役立てることはできるだろうか?という視点で研究を行っています。研究テーマは何ですか?と聞かれると「細胞老化制御法の探索、副作用の少ない抗がん手法の探索、皮膚防護作用のある素材の探索、新規バイオ素材の機能開拓」となります。もう少し分かりやすく噛み砕いて、「人体の健康にとって有用な物質や方法を見つけ、そのメカニズムを解き明かす研究」とでも言えば伝わりやすいでしょうか。主にヒト由来の培養細胞を使って研究しています。

農学(生命科学系)を選んだきっかけ

私は高校生の時にバイオテクノロジーという学問領域に大きな可能性を感じ、バイオテクノロジーが学べる学部へ進学しました。入学当初は、バイオテクノロジーを医療、畜産、農業、環境など、どのような分野に活かすことに取り組みたいのかまでは全く考えていませんでしたが、大学で学ぶうち、ヒトの体や細胞のしくみに特に興味をもち、細胞工学系の分野へと進みました。大学3年の研究室配属時に改めて自分の興味の方向性や将来について考えた結果、

・自分の体にも関わりうること(ヒトの病気や健康に関わること)を知りたい。

・自分の体(他の人にも)に役に立つことを知りたい、研究したい。

・できれば研究職に就きたい。

という結論に至り、自分の興味や将来像から研究室を選択しました。研究室での「調べて、考えて、計画して、実験して、その結果に一喜一憂しながらまた進む」という果てしない探求活動が私にはとても新鮮で、また、指導教員や先輩、同級生、後輩達と一緒に結果を考察したり、議論しあったりしたことが自分に大きな刺激と影響を与えてくれました。「研究は大変だけど面白い!」ということを実感し、研究を仕事にできたらいいなという思いが強くなりました。こういった当時の考えや研究室での学びや経験が、今の私の原点になっていると思います。

農学(生命科学系)の研究内容と主な実績

「老化」、「がん」、「皮膚機能」を主軸にそれらを制御できるバイオ素材の探索やその評価、メカニズムの解析を主にヒト培養細胞を用いて行っています。

○「老化」に関しては、さまざまな加齢性疾患の一因として注目されている細胞老化の研究を行っています。これまでにビタミンCと細胞老化の関係、老化細胞の性質解明や細胞老化制御法の探索などを行い、報告しています。

若い細胞と老化した細胞(ヒト線維芽細胞)の様子

老化細胞(右)では細胞の形態が変形、肥大化するとともに、老化細胞マーカーの薄青色染色像が多数認められます(矢印の細胞)。

○「がん」に関しては、副作用の少ない抗がん手法の探索を目指しており、それを実現できる新規バイオ素材の探索を行い、いくつかの天然化合物やその誘導体による効果を報告しています。

胃がん細胞に対する高濃度ビタミンCの効果

○「皮膚機能」に関しては、紫外線による皮膚障害やメラニン産生を制御する新規バイオ素材の探索を行っています。これまでに複数の化合物の有効性を見出し、報告しています。

ヒト皮膚細胞が紫外線照射を受けた後、時間経過に伴って細胞が傷害を受け、死滅していく様子(補足:細胞は赤色で蛍光染色しており、濃赤色の丸い部分が核です)。

論文発表、学会発表、著書等もっと詳しく知りたい方は、researchmap(https://researchmap.jp/yasukazu-saitoh)をご覧ください。

農学(生命科学系)から日々の生活に活かせること

医学、薬学分野ほどではありませんが、生命のしくみをより深く理解することで自身の体の中でどんなことが起こっているのかを知り、それを自身の生活や暮らしに活かせることでしょうか。例えば、体に良いと言われる食べ物はどうしてそうなのか?、体内でどのように働くのか?、逆に体に悪いといわれるものはなぜそうなのか?、など日々の暮らしに潜む「なぜ?」をある程度理解しながら自身の生活に取り入れるかどうか判断することが可能です。私自身、皮膚トラブルに悩んでいたので、そういった自分が困っている問題の理解や改善に役に立っていると思います。ただし、現在、世の中には不確かなものも含め様々な情報に溢れています。情報源が良く分からない時や研究段階という場合には、その情報自体の確からしさを自分自身で吟味・判断しなければなりませんので、注意が必要です。

農学(生命科学系)分野に関心のある方へのアドバイス

皆さんは「生命ってなんだろう?」って考えたことはありませんか?自分たちの身の回りにいる目に見える生き物から見えない生き物、植物、動物、微生物などに不思議さや凄さを感じたことはありませんか?もしそういった経験がなければ、最も身近な生命である「自分」という体の中、目では見えないレベルでどのようなことが起こっているのか考えてみたり、想像したことはありませんか?例えば、自分自身の誕生、子供から大人への成長、日焼けをしたり、病気になったり、年老いたり・・・、いったい何が自分の体の中で起こっているのか疑問に思うことはありませんか?

生命科学はヒト以外の様々な生物種も扱うため関連・派生分野も多く、色々な人の様々な興味・関心を受容してくれる懐が広い領域だと感じています。「生命って何だろう?」、「どんなしくみになっているのだろう?」など、みなさんの興味・関心があれば、いろいろな角度から挑戦できる、そんな分野だと思います。

また、「世の中の問題解決につながるような即戦力的な研究」から「まだ何の役に立つのか良くわからない研究」まで自由度が高く、幅が広いところもこの分野の大きな魅力だと思います。自分自身や我々を取り巻く様々な生命の営みや関わり、そういった生命のしくみはまだまだ分からないことだらけで、知るたびに驚かされることばかりです。生命科学という切り口からまだ誰も知らない、見たことがない現象やしくみを発見する、そんな経験が皆さんを待っているかもしれません。「生命の不思議や謎を解き明かす」という学びや研究に興味があれば是非、進路の一つとして考えてみて頂ければと思います。

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