京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授に、専攻とされている都市社会工学に関するインタビューを行いました。都市社会工学に関して学びを深めたいと考えている方や、藤井聡教授と同じく都市社会工学を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
京都大学大学院工学研究科 藤井聡教授のプロフィール
1968年生まれ。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰等、受賞多数。著書に「ゼロコロナという病」「こうすれば絶対良くなる日本経済」「大衆社会の処方箋」「列島強靭化論」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。東京MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。
1. ご経歴と専攻分野
自分は大学の専攻は都市社会工学の中の土木計画学というものです。
これは経済学社会学心理学等の社会科学をベースとしてインフラ政策、経済政策、防災政策等の公共政策を考える学問です。これを専攻するようになった経緯は、第一に京都大学の土木工学科に入学し、四年生の研究室配属で土木計画系の研究室に所属し、そして第二に行動経済学を主体的に活用する学位論文をまとめたことが大きかったと思います。
さらに第三に、学位取得後、経済学的な研究にさらに「人間」に関わる研究スキームを導入すべくスウェーデンイエテボリ大学の心理学科に留学したことが重大な意味を持っていました。そして第四に、留学から帰って来てから、人間の問題をさらに深く追求すべく、大学で教鞭をとる傍ら思想家・西部邁氏の私塾「表現者塾」に入塾し、主として保守思想や社会哲学を実践的な問題に重ね合わせながら学んだ事が決定的であったと思います。
以上の研究経緯の課程の中で、自治体や政府の諸委員会、そして最終的には内閣官房参与として様々な政治、行政に対して実践的な助言、議論のとりまとめ等を重ねてきたことで、実践と研究の双方を調和させながら実践的研究、研究的実践が可能となっていったという経緯も、今日の当方の研究活動推進において不可欠なプロセスでした。
2. 専攻分野である都市社会工学を選んだきっかけ
以上の様な経緯を辿ったのは偏に、皮相的、マニュアル的、点数稼ぎ的な「勉強」を徹底的に忌避する一方、真の学問は一体何を目指しているのであり、それぞれの学問活動がどういう深遠なる目的のための一歩一歩の活動になっているのかを明確に見据えようとする志があったからです。
最初に土木工学科に入学したのはほぼたまたまと言えるものですが、その後の経緯はそれぞれの時点において一体何が必要なのかを虚心坦懐考え、その時点で必要だと思えたものを素直に追い求めるという姿勢を保とうとしたが故だと言えるように思います。
3. 都市社会工学の主な実績
いわゆる「研究業績」としては、査読付き論文の数は約400本、学術界の受賞は日本学術振興会賞や文部大臣表彰若手科学者賞等計13本等があります。それらの業績は、交通計画学、国土計画学、国土学、認知的意思決定理論、社会的ジレンマ研究、経済政策学、防災、まちづくり、民俗学等の領域にまたがっています。
「実践」的な業績としては、国土強靱化の提案と実践指導、アベノミクスにおける積極財政論の提案と実践指導、モビリティ・マネジメントの提案・基礎理論の構築と実践指導、現代貨幣理論(MMT)の社会実装活動、保守思想誌「表現者クライテリオン」編集長としての言論活動、等があります。
4. 都市社会工学から日々の生活に活かせること
当方の専攻で学んだことで、日常の生活に活かせないものは無い、と言えます。なぜなら、当方の研究は、「公共政策」に関わるものであって、そして、公共政策は私達の生活に深く関わるものだからです。
そして、その私達の生活に関わるものである以上、そして、私達が曲がりなりにも民主社会と呼ばれる現代日本における国家や社会の一構成員である以上1)その公共政策の意義や意味を把握し2)その公共政策のあるべき姿と現状の問題について考え3)それらを踏まえて、その公共政策を如何に展開していくべきかを戦略的に考え、それに基づいた「実践」を日々展開していく「責務」をおっているからです。
いわば、最も広い意味における「政治」に私達現代人が関わらざるを得ない以上、当方の「公共〝政〟策」に関わるあらゆる研究は、日常生活の方向を決定づける重大な意味を持ち得るわけです。
5. 都市社会工学に関心のある方へのアドバイス
日本では基礎教育から高等教育に至るまで、いわゆる受験戦争での勝利や、マニュアル的な知識の拡大等のために膨大な時間が費やされてしまっている一方、「真の学問」や「真の実践」、さらには「真に正しきことや美しきこと」や「真実」とは何かを考える力を養う効果的教育が、残念ながらほとんどなされていないのが実情です。
その結果、日本人の心は年々貧しくなり、その必然的帰結として、現実経済的にも年々貧しくなっているのが実情です。真の学問や真の実践は豊かな心なかりせば絶対に実現しません。そして、豊かな心は、真の学問や真の実践によって涵養されるものでもあります。
どのような専門を目指されても結構だと思いますが、豊かな心を寛容する研究実践態度を志し、その志を支援する研究環境を探されることが、皆さんの生活や人生、そして皆さんが住まう社会や国家を豊かにする事を考える上で、とても大切なのだと思います。
是非、虚心坦懐、誠実に、自分のこれからのことや自分の住まうこの社会と国家と如何に関わっていくのかを、お考えになってみてください。