鹿児島大学大学院 理工学研究科 片野田洋教授に、専攻とされている理工学を中心にインタビューを行いました。理工学に関して学びを深めたいと考えている方や、片野田洋教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
片野田洋教授のプロフィール
- 1993年 九州大学工学部卒業
- 1995年 九州大学修士課程修了
- 1995-97年 三菱重工業
- 2000年 九州大学博士後期課程修了 博士(工学)、英国クランフィールド大学College of Aeronautics客員研究員
- 2001年 北九州市立大学国際環境工学部講師
- 2005年 鹿児島大学助教授
- 2015年 鹿児島大学教授
- 2017年 鹿児島ハイブリッドロケット研究会設立(代表)
ご経歴と専攻分野
高校生の時に流体力学に興味をもち、九州大学工学部機械工学科で学部の4年間、流体力学を含む機械工学全般について学びました。学習した流体力学は音速よりも遅い流れでした。大学院では高速の超音速の流体力学(圧縮性流体力学)について学びたいと思い、修士課程、博士課程は同大学総合理工学研究科の松尾一泰教授の研究室で研究を行いました。研究テーマは超音速内部流れの境界層の剥離と超音速噴流でした。風洞実験と数値シミュレーションにより研究を行いました。博士(工学)の学位取得後、英国クランフィールド大学College of Aeronauticsで客員研究員として超音速噴流の数値シミュレーションに関する研究を行いました。
帰国後に北九州市立大学国際環境工学部に勤務し、超音速流れの工業応用に関する研究を行いました。その後、鹿児島大学に赴任しました。当時、鹿児島大学で10cm角サイズの超小型人工衛星「KSAT」の開発プロジェクトが始動しており、その熱設計(伝熱計算)を担当することになりました。それが宇宙開発に関わるきっかけでした。KSATはH-IIAロケットの相乗りにより2号機まで打上げられました。現在は超音速流れの専門知識を生かして、主にハイブリッドロケットの研究を行っています。
理工学を選んだきっかけ
物心ついてから大学生になるまでに、スペースシャトルの初打上げや国際宇宙ステーションの構想発表、鹿児島県内でのロケット打上げなど宇宙関連のイペシトが次々と起こり、自然と宇宙開発に興味をもつようになりました。ただ、高校時代に流体の美しさに惹かれたことから流体力学を学びたいと考えるようになりました。そして、大学生以降もずっと流体力学の研究に携わってきました。しかし、鹿児島大学で行われていた超小型人工衛星開発のプロジェクトに「面白そう」と参加したのがきっかけで宇宙開発に関わることになりました。このロジェクトは事情があって中断していますが、自分の専門知識を生かして宇宙開発ができないかと調べる中でハイブリッドロケットの存在を知り、「鹿児島ハイブリッドロケット研究会」(Team KROX)を立ち上げて研究・開発を進めています。ハイブリッドロケットとは、燃料にプラスチックなどの高分子化合物、酸化剤に液体(や気体)を使用するタイプのロケットです。爆発しない燃料を使用するため、安全性が高いのが特徴です。
理工学の主な実績
Team KROXの活動目的は、小型ハイブリッドロケットの開発と打上げを通して、地域振興、地元企業エンジニアのモチベーション向上、人材育成、理科教育の振興、ハイブリッドロケットの研究成果を用いた事業化を行うことです。鹿児島県には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の射場が種子島と肝付町内之浦にありますが、内之浦宇宙空間観測所(Uchinoura Space Center;USC)での打上げは年1~2回しかありません。そこで、USCを民間ロケットの打上げも可能な射場にすることで地域を活性化したいと考えています。
ロケットで最も重要な開発要素はエンジンです。USCはJAXAの固体ロケットの射場ですが、Team KROXはUSCで初めてエンジンの燃焼試験を実施しました。平成30年から7年間にわたり、計51回実施しました。燃料にはアクリルとパラフィンワックス(ロウ)、酸化剤には液体酸素を使用してきました。
小型ハイブリッドロケット(通称「鹿児島ロケット」)の打上げも将来的にはUSCから行いたい考えていますが、現在は技術面と法令面のハードルがあるため、USC近くの辺塚海岸で打上げ実験を行ってきました。初号機から5号機まで全長約2.6m、直径140mm、質量20kg前後でほぼ同じです。打上げに際しては,地元肝付町の支援を受けています。
- 2019年 初号機(計画高度400m)
- 2020年 2号機 ユピテル号(計画高度450m)
- 2022年 3号機 ユピテル号(計画高度1.5km)
- 2023年 4号機 ユピテル羽衣シックス号(計画高度2km)
- 2024年 5号機 霧島レイ号(計画高度2km)
理工学から日々の生活に活かせること
圧縮性流体力学や熱力学、燃焼学を学んだことで高温の超音速流れの理論が理解できるようになり、ロケットエンジンの設計ができるようになりました。ロケットはエンジンだけあれば飛ぶ訳ではなく、他にも強度設計、電子回路、無線通信など多様な知識が必要になります。Team KROXを組織したことで様々な専門知識をもつ人材が集まる受け皿ができ、ハイブリッドロケットの開発が進んでいます。
これからの地方大学に求められる重要な役割の一つは、地域の発展に貢献することです。圧縮性流体力学を学んで良かったことは、ハイブリッドロケットの開発・打上げを通して地域貢献ができていると実感できることです。
理工学に関心のある方へのアドバイス
自分が日頃どのような分野や技術に興味をもっているのかを意識して欲しい。併せて、世界中で起きている出来事やビジネストレンドとその社会的・経済的背景に関心をもって欲しい。自分の好きなことや技術を通してどのような社会問題の解決に貢献できるか、より安心・安全な社会の実現と生活の豊かさの向上にどのように貢献できるか日頃から考えていると、進路選択の際に迷うことは少ないと思います。