学習院大学 経済学部 経済学科の鈴木亘教授に、専攻とされている経済学に関するインタビューを行いました。経済学に関して学びを深めたいと考えている方や、鈴木亘教授と同じく経済学を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
鈴木亘教授のプロフィール
日本銀行行員、大阪大学社会経済研究所助手、日本経済研究センター副主任研究員、大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授、東京学芸大学教育学部助教授・准教授、学習院大学経済学部准教授などを経て、2009年同大学経済学部教授。経済学博士(大阪大学)。この間、政府の規制改革会議専門委員、国家戦略特区委員、行政改革推進会議構成員、東京都特別顧問、大阪市特別顧問、医療経済学会理事・事務局長などを歴任。
1. ご経歴と専攻分野
上智大学の経済学部を卒業後、日本銀行に総合職として4年務めておりました。その後、大阪大学で修士号と博士号を取得して、研究所や大学などの研究機関をあちこち移ってきましたが、現在は、学習院大学経済学部の教授をしています。大学では図書館長を6年間勤めて、大きな新図書館の建設に携わりました。学部では、社会保障論、福祉の経済学を教えています。
2. 専攻分野である経済学を選んだきっかけ
学部時代に、恩師の八代尚宏教授(現在、昭和女子大学特命教授)のゼミナールに入ったことが全てのきっかけだったと思います。八代先生は、従来の金融、財政、マクロ経済、国際経済といった「重厚な」イメージのある経済学とは異なり、少子高齢化や女性労働、教育、医療、法律問題、都市問題といった「柔らかな」経済学を教えていらっしゃいました。
人間行動を分析するために経済学を応用するというコンセプトに、当時、私はすっかり魅入られてしまいました。大学卒業時には、若気の至りで、うっかり重厚な経済学の総本山とも言える日本銀行に入行してしまいましたが、その支店の経済調査で出向いた大阪の貧困地区(西成区のあいりん地区、釜ヶ崎とも言う)に衝撃を受けるなど、いろいろあって、大阪大学の大学院に入りなおし、年金、医療、介護などの社会保障問題や、ホームレス、生活保護、児童福祉などの福祉の経済学を専攻し、また、柔らかな経済学に戻ってきました。
3. 経済学の主な実績
私が、大学院で、社会保障や福祉の経済学を専攻した当時、この分野で研究している経済学者は、日本では指折り数えられるぐらい、ほんのわずかでした。しかし、少子高齢化が急速に進む日本では、この分野はまさに問題山積。いくらでも取り組むべき問題があり、一生懸命に様々な課題に取り組んでいるうちに、学術面でも実務面でも数多くの業績・実績を作ることができました。研究者として、ただ、学術論文を執筆するだけではなく、様々な行政機関で実際に社会保障、社会福祉分野の改革の実務を行ってきたことが、私という研究者の大きな特徴です。
その集大成ともいえる著作が、鈴木亘『経済学者 日本の再貧困地域に挑む―あいりん改革 3年8カ月の全記録』東洋経済新報社(2016 年)です。先に触れた大阪の貧困地区の改革、地域再生を、当時の橋下徹大阪市長から託され、地元の様々な人々や大阪市、大阪府などの役所職員たちと、様々な障害を乗り越え、地域再生の取り組みを進めた経験を、ルポルタージュとしてまとめています。
学術面の著作の集大成としては、共著ですが、『生活保護の経済分析』東京大学出版会(2008 年)、『保健政策の経済分析』東京大学出版会(2016 年)があります。それぞれ、その年の日経・経済図書文化賞という栄えある賞を受賞することができました。
4. 経済学から日々の生活に活かせること
私の信念は、「なんでも経済学」(世の中の全て社会問題は経済学で分析できる)ということです。経済学は、人文科学や他の社会科学とは異なり、かなり理系的なアプローチを行うサイエンスで、ただ、その対象を人間や社会に求めているだけです。つまり、人生の諸問題、社会問題を、理系的な乾いた眼(合理的な観点)で冷静に分析し、エビデンスを積み上げ、その処方箋(問題解決)を導こうとする実践的な学問です。このアプローチは、日常生活の中でも、自分を取り巻く身近な問題の解決にも、かならず生かすことができます。要するに、合理的にものを考え、対処する力が身につきます。
5. 経済学に関心のある方へのアドバイス
「人生には無駄な経験は何一つない」と言います。すぐに研究生活に入らず、いろいろ回り道をしてきた私ですが、今やっていることを考えると、そのすべてが生かされているように思います。もともと両親が芸能人なので、文学や芸能関係全般が大好きです。登山やマリンスポーツなどのアウトドアが大好きで、国内外の様々な場所を旅してきました。
大学時代に力を入れていた障がい者福祉などのサークル活動、シンクタンクなどで働いていたアルバイト生活、日本銀行での官僚生活なども、意味のある研究課題を探す感性を磨いたり、研究プロジェクトを段取り良く進める行動力、事務処理能力などに、大いに役立っています。そういう意味では、学生時代は、様々な活動を一生懸命やって、多くの人間や組織に触れて、視野を広げることが重要だと思います。
そして、身近な人間関係、社会問題を体験し、深く考えるところから、様々な重要な研究テーマが生まれます。「研究バカ」にならないためには、経済学の勉強だけではなく、人としての総合力を磨くことが重要です。