法政大学 理工学部の石井千春教授に、専攻とされているロボット工学を中心にインタビューを行いました。ロボット工学に関して学びを深めたいと考えている方や、石井千春教授と同じ学問を専攻としていきたい学生さんは、ぜひ最後までご覧ください。
石井千春教授のプロフィール
1997年、上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。工学院大学専任講師、同助教授、芝浦工業大学准教授を経て、2010年より法政大学准教授、2011年より同大学教授。医療ロボティクス、生活支援ロボット、ロバスト制御の研究に従事。日本機械学会、日本ロボット学会、計測自動制御学会、日本コンピュータ外科学会、電気学会、IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)の会員。
1. ご経歴と専攻分野
1997年に上智大学大学院で博士(工学)の学位を取得し、研究者としての第一歩を踏み出しました。学生時代は機械工学を専攻し、主に適応制御やH∞制御などの制御理論を研究していました。一方、独学でロボット工学、メカトロニクス、生体医工学などを勉強し、現在はロボティクスおよびメカトロニクス分野の研究者の一人として研究開発に励んでいます。これまでに、医療用多自由度ロボット鉗子(a)、筋電位(EMG)、眼電位(EOG)、脳波(EEG)などの生体信号で操作する電動車いす(b)、筋電義手利用者のための圧覚、温度覚のフィードバック装置(c)などの研究開発を行っています。現在は、様々な作業分野で使用可能なパワーアシストスーツ(d)の開発に取り組んでいます。
2. 専攻分野であるロボット工学を選んだきっかけ
子供の頃からロボットに憧れていて、小学生や中学生の時には田宮模型のギヤボックスを用いて手作りロボットを製作していました。モノづくりが好きだったことから、大学では機械工学科に入学しました。
大学に在学中は主に制御理論について研究していましたが、大学教員になると転機が訪れます。工学院大学に講師として勤務していた時に、所属していた学科が企業連携型プロジェクトに取り組んでおり、企業と連携したより実用的な研究に目を向けるようになりました。企業連携型プロジェクトにおいて、ある企業からの依頼で、当時の学生達と医療用多自由度ロボット鉗子を開発したのが、医療ロボットの開発を始めたきっかけです。
パワーアシストスーツの開発も、当時は既に様々な研究機関でパワーアシストスーツの開発が行われていて、後追いになっていましたが、卒業研究でパワーアシストスーツを開発したいという学生の一声がきっかけで研究開発を始めました。開発を進めていくうちにJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の大学発新産業創出プログラム(START)技術シーズ選抜育成プロジェクト(ロボティクス分野)に採択されるなどして、最終的に商品として販売するまでに至りました。
3. ロボット工学の主な実績
これまでの実績として、50件以上の論文、230件以上の講演・口頭発表があり、国際会議において20件以上の基調講演を行っています。また、教育においては日本機械学会 教育賞を受賞、研究においては国内の学会において7件、国際会議において10件の優秀論文賞および優秀発表賞等を受賞しています。
主な著書に、「Scilabで学ぶシステム制御の基礎,オーム社」、「Scilab/Scicosで学ぶ シミュレーションの基礎,オーム社」、「基本からわかるシステム制御講義ノート,オーム社」などがあります。
最近、アメリカ カリフォルニア州 Meta Analytics 社が提唱する、世界の研究者のアクティビティや実績を評価する新たな指標 ScholarGPS により、Mechatronics 分野において、世界中のすべての学者の上位 0.5% に位置付けされました。
4. ロボット工学で日々の生活に活かせること
医療ロボティクスにおいては、以前北海道大学に勤務していた外科医の先生との医工連携により、腹腔鏡下手術についての知識を学び、腹腔鏡下手術支援ロボットを用いた触診についての研究を展開するに至りました。これは、画像では診断が困難な小さな早期の腫瘍を、力触覚フィードバック機能を持つ手術支援ロボット(A)を用いて、触診により見つけ出そうというもので、早期の実用化が期待される技術です。
腰補助用パワーアシストスーツの開発では、実際の介護現場を訪問して勉強会を開催し、介護者の方の生の声を聞いてパワーアシストスーツを開発し、実用化に至りました。他にも、農業の現場や建設現場においても、現場の声を聞きながら実証実験を行い、開発を行っています。
現在は、青森県の海洋建設会社との共同研究で、海中で使用するパワーアシストスーツ(B)の開発プロジェクトを進めています。現場で働く潜水士の方の生の声を聞いて、実際に自分たちが開発しているものが現場でどのように役立つのかを実感しながら開発に取り組んでいます。これは、現勤務先における法政大学憲章の「自由を生き抜く実践知」にも適合しています。
5. ロボット工学に関心のある方へのアドバイス
工学の分野において、研究は楽しんで行うことが理想でしょう。しかしながら、真理にたどり着くまでは苦難の道です。それだけに、苦労を経て得られた成果には、充実感と達成感が得られます。努力をすれば何かしらの形で報われる、これが工学の利点の1つでしょう。
ロボット工学およびメカトロニクスは様々な学問分野の複合領域です。まずは、1つの学問分野を習熟して、その分野のスペシャリスト(専門家)になり、さらにそれを基軸として様々な学問分野を広く浅く学び、ジェネラリスト(万能家)になるとよいと思います。実社会における課題の解決には、様々な分野の科学技術に関する知見を総合的に活用して取り組む、総合知が必要になると考えます。
また、工学といえども、英語は重要です。学生時代には、海外の国際会議で学会発表を経験して、文化の違いを学び、見分を広め、グローバルな視点で物事を考える力を身に付けることが重要です。各大学で短期間の海外研修プログラムが用意されていると思いますので、ぜひ参加するとよいでしょう。